エドワード・ゴードン・クレイグ(Edward Gordon Craig, 1872–1966)とは?
エドワード・ゴードン・クレイグは、イギリスの舞台美術家、演出家、理論家であり、20世紀の演劇に大きな影響を与えた人物です。彼は舞台美術を単なる背景ではなく、演劇の本質的な要素とみなし、抽象的で象徴的な舞台デザインを提唱しました。

1. クレイグの生涯
- 1872年:ロンドンに生まれる。母は著名な女優エレン・テリー(Ellen Terry)。
- 1890年代:俳優として活動した後、舞台美術と演出に興味を持つ。
- 1900年代:象徴主義の影響を受け、舞台美術に関する革新的な理論を発表。
- 1910年:コンスタンチン・スタニスラフスキーのモスクワ芸術劇場と協力し、『ハムレット』の舞台美術を手掛ける。
- 1966年:フランスで死去。
2. クレイグの舞台美術と理論
① セノグラフィーの革新
- クレイグは舞台装置を単なるリアリズムの道具ではなく、劇の演出と一体化した「視覚的な詩」として捉えました。
- 平面的な背景ではなく、可動式のスクリーンや光を駆使して舞台空間をデザイン。
② 俳優の役割を再定義
- クレイグは、俳優の演技を超えた理想的な表現を求め、「超人形」という概念を提唱しました。
- 彼の理論では、俳優は人形のように完全に演出家の指示に従うべきだとされましたが、これは物議を醸しました。
③ 抽象的・象徴主義的な舞台
- クレイグは、装飾的なリアリズムではなく、抽象的で象徴的な舞台装置を提唱しました。
- 例えば、『ハムレット』の舞台では、伝統的な城のセットではなく、巨大な幾何学的なスクリーンを使用し、光と影を強調しました。

3. クレイグの影響
① 舞台美術の概念を一変
- 彼の考えは後の舞台美術家、特に**アドルフ・アッピア(Adolphe Appia)やジョセフ・スボボダ(Josef Svoboda)**らに影響を与えました。
② 現代演劇への影響
- 抽象的で象徴的な舞台デザインは、ブレヒトの異化効果(Verfremdungseffekt)やロバート・ウィルソンの演劇にも影響を与えています。
③ 舞台デザインだけでなく、演出の概念も発展
- 演出家の役割を強調し、演劇を総合芸術として捉える視点を広めた。
4. クレイグの主な著作
- 『The Art of the Theatre』(1905年)
- クレイグの舞台美術・演出論をまとめた代表作。
- 『On the Art of the Theatre』(1911年)
- 俳優と舞台の関係性についての論考。
5. まとめ
**エドワード・ゴードン・クレイグは、舞台美術を単なる背景から「舞台全体の表現」として捉えた革新的な演劇理論家でした。**彼の抽象的な舞台デザインや演出理論は、現代演劇の基礎を築き、今なお多くの舞台美術家や演出家に影響を与え続けています。