Adolphe Appia(アドルフ・アッピア)1862―1928_演出家、照明家、舞台美術家 [スイス]

アドルフ・アッピア (Adolphe Appia, 1862-1928)

【人物】 スイスの舞台美術家であり、20世紀の演劇に革命をもたらした、近代舞台照明の父とも呼ばれる偉大な理論家です。彼は、ジョセフ・スボボダよりも前の世代にあたり、その思想は後の多くの舞台芸術家に大きな影響を与えました。

【コンセプト】 アッピアが生きた19世紀末の舞台は、リアルに見えるように描かれた**「書き割りの絵」が主流でした。彼は、この平面的で、俳優から浮いてしまっている舞台美術**を強く批判しました。 彼が目指したのは、音楽(特にワーグナーのオペラ)、俳優の身体、空間、そして光が、完全に一体となった、統一感のある芸術作品を創り出すことでした。

【主な手法・特徴】

  1. 立体的な空間(リズミカルな空間):
    • アッピアは、ペラペラの背景画を捨て、俳優が実際に使える階段、スロープ、演台(プラットフォーム)といった、シンプルで力強い立体的な構造物だけを舞台に置きました。
    • これは、俳優の身体が動くための「リズム」を生み出す空間であり、俳優が孤立することなく、空間と一体となることを可能にしました。
  2. 生きた光(Living Light):
    • 彼にとって、光は単に舞台を明るくするためのものではありませんでした。光は、空間に形を与え、俳優の身体を彫刻のように浮かび上がらせ、そして音楽やドラマの感情を表現する、最も重要な要素でした。
    • 彼は、影を効果的に使い、光そのものを、まるで一人の登場人物のように扱いました。
  3. 俳優中心の思想:
    • アッピアの考える舞台の中心は、常に**「動く俳優の三次元的な身体」**でした。立体的な空間も、それを彫り出す光も、すべてはこの俳優の表現を最大限に引き出すために存在すべきだと考えました。

【目指したもの】 アッピアが目指したのは、俳優、空間、光が音楽と一体となって織りなす、**総合芸術(ゲザムトクンストヴェルク)**としての演劇でした。彼のデザインは、具体的な場所の説明ではなく、ドラマの本質や魂を表現するための、詩的で、音楽的な空間だったのです。

【なぜ重要か】 アッピアの思想は、舞台美術を「背景画」から、俳優と共鳴する**「建築的で、光に満ちた空間」**へと変革しました。彼がいなければ、現代の舞台照明や、抽象的な舞台美術の発展はあり得なかったと言える、極めて重要な人物です。

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