20世紀後半の舞台照明技術の発展とコンピューターの導入
舞台照明のコンピューター化は、ロックコンサートや映画業界など予算のある分野で先行して発展した。1980年代になると、劇団も技術を取り入れ始め、KlieglやETC、Rosco Laboratoriesがコンピューター制御の照明機器を改良。2001年にはRoscoがImageProを開発し、データプロジェクターも舞台で使われるようになった。自動照明は1970年代に登場し、1990年代にはLED技術の進化でフィルター不要のカラー照明が可能になった。これにより表現の幅は広がったが、照明キューの管理が複雑化し、機材のコストや動作音などの課題もあった。1980年代には異なる機器の互換性の問題があったが、標準化が進み、コンピューター照明コンソールが普及。Photoshopを活用した照明デザインも可能になり、デザイナーの創造性を制限する要因は劇場の構造や予算程度になった。
コンピューター支援設計(CAD)の発展
1960年代後半からCADの研究が始まり、1980年代にはマイクロプロセッサの進化により演劇技術にも活用されるようになった。イギリスが先導し、ドイツやアメリカが続いた。1973年にはイーサネットが開発され、ネットワーク化が進展。1982年にAutoCADが登場し、PCの普及とともに舞台美術の製図は手描きからデジタル作成へと移行した。
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技術の進歩と現代の舞台美術
技術の発展により、舞台美術のあり方は大きく変化した。かつては手描きで作られていた背景や装飾が、1940年代以降、既製の塗料や映像投影、照明技術によって代替されるようになった。さらに、21世紀にはデジタル技術が普及し、プロジェクターによる下絵作成や、大型プリンター・塗装機械による背景制作が一般化した。これにより、舞台美術家の役割はデザイナーの意図を再現する仕事へと変化し、伝統的な技術の継承が難しくなった。一方で、デジタル化には課題もある。手描きのデザインと異なり、デジタルデータの解釈が難しい場合があり、拡大によって質感が失われることもある。そのため、デジタルと手描きを組み合わせることで、より豊かな表現を追求する試みが行われている。また、現代の舞台デザインは、リアリズムから抽象表現まで多様なスタイルを取り入れている。その背景には、20世紀初頭のモダニストたち(アッピア、クレイグ、メイエルホリドなど)の影響があり、新技術の発展とグローバル化によってさらに進化している。特に、映像や照明技術を駆使し、折衷的な視覚スタイルを生み出す傾向が強まっている。現代の演劇は、従来のテキストに縛られず、演出家やデザイナーが独自の解釈を加えた「改作」や「新しい解釈」が増えている。デザイナーは単なる舞台装置の設計者ではなく、作品全体の視覚的メッセージをコントロールする立場となり、演劇の表現はより多様で実験的なものになっている。