**インディペンデント・シアター(Independent Theatre)**とは、商業演劇とは異なる独立系の劇場や劇団の総称です。19世紀末から20世紀初頭にかけて、特にヨーロッパとアメリカで台頭し、芸術的な実験や新しい演劇スタイルの発展に大きな役割を果たしました。
インディペンデント・シアターの特徴
- 商業演劇からの独立
- 興行的成功よりも芸術的表現の追求を重視。
- ブロードウェイやシンジケートのような大規模な商業劇場とは異なり、小規模な劇場で新しい演劇を試みた。
- 前衛的・実験的な演劇の上演
- 社会問題や心理描写を重視したリアリズム演劇(例:イプセン、ストリンドベリ)。
- 象徴主義、表現主義、叙事詩的演劇など、新しい演劇スタイルの試み。
- ヨーロッパでは、**アンドレ・アントワーヌの自由劇場(Théâtre Libre)やオットー・ブラームのフライエ・ブューネ(Freie Bühne)**などがその代表例。
- 小規模な劇場と新しい観客層
- 商業劇場に比べて規模が小さく、限られた観客を対象とした。
- 一般の娯楽観客ではなく、知識人や演劇愛好家を主な観客層とした。
アメリカにおけるインディペンデント・シアター
アメリカでは、**20世紀初頭の「リトルシアター運動(Little Theatre Movement)」**と呼ばれる独立系劇場の発展がインディペンデント・シアターの流れを作りました。代表的な劇場には以下のようなものがあります。
1. トイ・シアター(Toy Theatre, 1912年, ボストン)
- **リビングストン・プラット(Livingston Platt)**が芸術監督として活躍。
- ヨーロッパの舞台美術や新舞台芸術の影響を取り入れた。
2. リトル・シアター(Little Theatre, 1912年, シカゴ)
- **モーリス・ブラウン(Maurice Browne)とエレン・フォン・フォルケンバーグ(Ellen von Volkenberg)**によって設立。
- 舞台美術家の**マイケル・カーマイケル・カー(Michael Carmichael Carr)**が参加し、エドワード・ゴードン・クレイグの影響を受けた舞台デザインを実践。
3. ニューヨークのリトルシアター系劇場
- ネイバーフッド・プレイハウス(Neighborhood Playhouse)
- ワシントン・スクエア・プレイヤーズ(Washington Square Players)
4. プロヴィンスタウン・プレイヤーズ(Provincetown Players, 1915年)
- **ユージーン・オニール(Eugene O’Neill)**が活動した劇団。
- アメリカの新しい演劇文学を育成し、リアリズム演劇の発展に寄与。
5. デトロイト・アーツ・アンド・クラフツ・シアター(Detroit Arts and Crafts Theatre)
- 手作りの美術や演出にこだわり、商業主義に対抗。
大学の関与
大学の演劇教育もインディペンデント・シアターの発展に影響を与えました。
- **ハーバード大学のジョージ・ピアース・ベイカー(George Pierce Baker)**が1913年に演劇ワークショップを開設。
- **カーネギー工科大学(現カーネギー・メロン大学)のトーマス・ウッド・スティーブンス(Thomas Wood Stevens)**が、1914年にアメリカ初の演劇学位プログラムを設立。
- **イェール大学の演劇学校(Yale School of Drama)**も、1925年以降重要な役割を果たした。
まとめ
インディペンデント・シアターは、商業演劇に依存せず、新しい演劇表現を追求する場として発展しました。特にアメリカでは、「リトルシアター運動」や大学演劇がその流れを作り、ヨーロッパの新しい舞台芸術の影響を受けながら、アメリカ独自の演劇スタイルを発展させる土壌となりました。