ラルフ・コルタイ(Ralph Koltai, 1924-2018)は、イギリスを代表する舞台美術家であり、独創的なデザインと抽象的な空間構成で知られています。彼は演劇、オペラ、バレエなど幅広い分野で活動し、20世紀後半の舞台美術に革新をもたらしました。

経歴と生涯
- 1924年 ドイツのベルリンで生まれる。
- 1939年 ナチスの迫害を逃れ、イギリスに移住。
- 第二次世界大戦中 イギリス軍に従軍し、その後美術を学ぶ。
- 1948年-1950年 ロンドンの**セントラル・スクール・オブ・アート・アンド・デザイン(Central School of Art and Design)**で学ぶ。
- 1950年代 舞台美術のキャリアをスタート。
- 1960年-1970年 イギリスのナショナル・シアターやロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)で活躍。
- 1980年-1990年 オペラやバレエの舞台美術も手がけ、国際的に高い評価を得る。
- 2018年 94歳で死去。
舞台美術の特徴
- 抽象的かつ象徴的なデザイン
- 従来のリアリズムにとらわれず、舞台の空間を大胆に構築。
- シンプルなセットの中に、象徴的な要素を配置することで、演劇のテーマを強調。
- インダストリアルな素材の活用
- 金属、アクリル、プラスチックなどの工業素材を使用し、近未来的なビジュアルを作り上げた。
- 特に鉄や鋼の構造を大胆に用いたデザインが印象的。
- 俳優との関係性を重視した空間作り
- 舞台空間を固定された背景としてではなく、俳優の動きと対話する「変化する空間」として設計。



代表作
- 『リア王』(King Lear, 1962, RSC)
- 巨大な鉄のセットを使用し、王の孤独を象徴的に表現。
- 『マクベス』(Macbeth, 1972, RSC)
- 構造的でミニマルなセットデザインが話題に。
- 『オルフェオとエウリディーチェ』(Orfeo ed Euridice, 1979, ENO)
- 抽象的な空間構成で、神話の世界を現代的に再構築。
- 『魔笛』(Die Zauberflöte, 1984, English National Opera)
- 幾何学的なセットと鮮やかな色彩を駆使した幻想的な舞台。
影響と評価
- イギリスの現代舞台美術の発展に多大な貢献をし、後進の舞台デザイナーに影響を与えた。
- リアリズムから抽象性への転換を促し、演劇の視覚的な可能性を広げた。
- オペラやバレエの舞台デザインにも新風を吹き込み、国際的に評価された。
コルタイの舞台美術は、**「演劇空間の再定義」**とも言える革新的なアプローチを取り入れ、現代の舞台デザインにも影響を与え続けています。