ロバート・エドモンド・ジョーンズ(Robert Edmond Jones, 1887-1954)は、アメリカの舞台美術家、照明デザイナー、劇作家であり、舞台美術における「新舞台美術運動(New Stagecraft)」の先駆者として知られています。彼の仕事は、それまでの写実主義的な舞台装置とは異なり、象徴主義や抽象的なデザインを取り入れた革新的なもので、アメリカ演劇界に大きな影響を与えました。

1. 生涯と経歴
幼少期から教育
- 1887年12月12日、アメリカ合衆国ニューハンプシャー州ミルトン生まれ。
- ハーバード大学で美術を学び、演劇に関心を持つようになる。
- 卒業後、ヨーロッパ(特にドイツ)に渡り、当時の舞台美術の潮流を学ぶ。特に、エドワード・ゴードン・クレイグ(イギリスの舞台美術家)やアドルフ・アッピア(スイスの舞台美術家)の影響を強く受けた。
キャリアの展開
- 1915年、ユージン・オニール作『The Man Who Married a Dumb Wife(口のきけない妻を娶った男)』の舞台美術を手掛け、一躍注目される。
- 1916年、劇作家ユージン・オニールやリー・サイモンソンらとともに、実験的な劇団「プロヴィンスタウン・プレイヤーズ(Provincetown Players)」に関わる。
- 1917年、ブロードウェイの『リチャード三世』で、抽象的な背景と大胆な色彩を使用した舞台美術を披露し、成功を収める。
2. 新舞台美術運動(New Stagecraft)
ジョーンズは、アメリカにおける新舞台美術運動の中心人物でした。この運動の特徴として、以下のような要素が挙げられます。
- 写実主義からの脱却
- 19世紀の豪華な舞台装置(プロセニアム・アーチを活用した写実的なセット)から脱し、象徴主義的・表現主義的な手法を採用。
- 俳優の演技や演出と一体化する舞台空間を構築。
- 光と影の演出
- 照明を単なる明かりとしてではなく、空間の表現手段として活用。
- アドルフ・アッピアの理論に影響を受け、照明を用いて奥行きや心理的な効果を生み出した。
- 単純化された舞台デザイン
- 過剰な装飾を排し、最小限の要素で効果的な舞台空間を作り出す。
- 例えば、『The Green Pastures(緑の牧場)』(1930年)では、シンプルな背景と象徴的な装置を用い、観客の想像力を刺激した。
3. 代表作
- 『The Man Who Married a Dumb Wife』(1915年)
- ジョーンズのデビュー作。モノクロの舞台セットで、写実性を排したデザインが特徴。
- 『リチャード三世』(1917年)
- 伝統的な舞台美術を捨て、象徴的な空間と大胆な照明を使用。
- 『マクベス』(1921年)
- 俳優ポール・ロブスンが主演。舞台美術に抽象的な要素を取り入れ、幻想的な雰囲気を醸成。
- 『The Green Pastures』(1930年)
- アメリカ南部の黒人文化をテーマにした劇。神話的な雰囲気を持つシンプルな舞台美術が高く評価された。
- 『Oklahoma!』(1943年)
- ミュージカルの舞台美術にも影響を与えた作品。シンプルながらも印象的な風景画のような背景を使用。
4. 舞台美術への影響
- ジョーンズの舞台美術は、後のアメリカ演劇やミュージカルにも大きな影響を与えた。
- 彼の理論は、ジョセフ・スヴォボダやミング・チョウ・リーといった舞台美術家にも影響を及ぼした。
- 彼の著書**『The Dramatic Imagination』(1941年)**は、現在でも舞台美術の重要な教科書として扱われている。
5. 晩年と死
- 1940年代以降は、舞台美術の指導者としても活動し、多くの若手アーティストを育成。
- 1954年11月26日、マサチューセッツ州ストックブリッジで死去(享年66歳)。
6. まとめ
ロバート・エドモンド・ジョーンズは、アメリカにおける近代舞台美術の礎を築いた人物です。彼の象徴的で抽象的なデザインは、従来の写実的な舞台美術を覆し、照明と空間の新たな可能性を開きました。特に「新舞台美術運動」の旗手として、舞台を単なる背景ではなく、演劇そのものの一部とするアプローチを確立しました。彼の影響は現代の舞台美術にも受け継がれ、今なお演劇界で高く評価されています。
もしジョーンズの作品や理論についてさらに深く研究したい場合、『The Dramatic Imagination』が参考になる。