第5章は、18世紀に発展した舞台デザイン手法であるシエナ・パ・アンゴロの影響について解説している。シエナ・パ・アンゴロは、舞台と観客席の関係性を一体的に捉え、より劇的で奥行きのある舞台空間を生み出す手法である。本章の主なポイントは以下の通り。
1. シエナ・パ・アンゴロの発展
- 18世紀初頭までに、舞台デザイナーたちは数学的(線形)遠近法を用いて、舞台空間と観客席を統一的に捉える手法を洗練させた。
- 特に斜めの視線(シエナ・パ・アンゴロ)を用いることで、舞台に強い奥行きを感じさせることが可能になった。
2. 遠近法の変化
- 1700年頃には、従来の一点透視図法から進化し、舞台を斜めに横切る複数消失点を用いる手法が発展した。
- これにより、観客の座る位置による見え方の差異を軽減し、舞台のイリュージョン効果を高めることができた。
3. 飛ぶ道具(フライングマシン)の利用増加
- この時代には、特別な舞台効果を生み出すためにフライングマシン(飛ぶ道具)への依存度が増した。
- 特にバロックオペラなどでは、神々や天使が宙を舞う演出などに用いられた。
4. フェルディナンド・ガッリ・ビビエナの貢献
- フェルディナンド・ガッリ・ビビエナ(Ferdinando Galli Bibiena)は、斜め遠近法と複数消失点を取り入れた舞台美術を確立した。
- 1711年出版の著書『建築家』では、彼の舞台デザインに対する理論と実践が示されている。
- ビビエナの手法は、イリュージョン建築の効果を高め、豪華で壮大な舞台空間を生み出した。
5. 複数消失点の利点
- 複数消失点の利用により、舞台上の建築空間はより自然で深みのあるものとなった。
- また、中央から外れた座席の観客にも、舞台のリアルな奥行きを感じさせることが可能となった。
6. バロック期と舞台美術
- 1650年から1750年の期間は、バロック期と呼ばれますが、歴史家の間ではその時代区分に関して意見が分かれている。
- 舞台デザインにおいては、装飾性・幻想性を重視するバロック様式が顕著だった。
7. ビビエナ家の影響
- ビビエナ家は、セーナ・ペル・アンゴロを用いた舞台デザインを完成させた一族。
- フェルディナンド・ガッリ・ビビエナ(1657-1743)
- フランチェスコ・ガッリ・ビビエナ(1659-1739)
- ジュゼッペ・ガッリ・ビビエナ(1696-1757)
- 彼らの手法はヨーロッパ全土に広がり、多くの劇場で採用された。
8. ビビエナ家の作品例
- 舞台設計図、壁立面図、床面図などを基に、ビビエナ家のデザインが詳細に紹介されている。
- 複数消失点を使用することで、視覚的なイリュージョン効果を最大限に引き出した。
- また、舞台装置の転換を容易にするため、釣合いおもりやキャプスタンなどの舞台機構も積極的に導入した。
9. ガッリアーリ家の活躍
- ガッリアーリ家(ファブリツィオ、ジョヴァンニ、ジュゼッペ)もシエナ・パ・アンゴロを活用し、風景や樹木を用いた舞台美術を発展させた。
- 彼らのデザインはより様式化されており、装飾性と自然描写を重視していた。
10. ジャン・ベランとフランス舞台美術
- フランスの舞台美術では、ビビエナ家の影響をあまり受けず、ジャン・ベラン(Jean Berain)を代表とする対称的で装飾的なデザインが主流だった。
- フランス王室の支援により、舞台美術は文学的な内容や俳優の演技を重視する傾向にあった。
11. フランスとイタリアの舞台美術の違い
- フランスでは、観客の関心は文学的内容や俳優にあり、舞台装置は装飾的要素に留まった。
- 一方でイタリアでは、ビビエナ家の影響を受けた豪華な舞台空間が重視された。
- これにより、両国の舞台美術は異なる発展を遂げた。
まとめ
第5章では、18世紀の舞台美術がセーナ・ペル・アンゴロの導入によって大きく変化し、視覚的イリュージョンと豪華な舞台空間を生み出す流れが解説されている。
特に、ビビエナ家をはじめとするデザイナーの貢献が強調されており、彼らの手法はヨーロッパ中に広まった。
また、イタリアとフランスの舞台美術の違いにも言及されており、装飾重視のフランスと建築的イリュージョンを重視するイタリアの対照的なアプローチが明確に描かれている。