近代主義と舞台美術の変革(19世紀後半〜20世紀初頭)
この章では、19世紀後半から20世紀初頭にかけての演劇における大きな変革、特に近代主義の潮流とその舞台美術への影響について解説している。
- 自然主義とリアリズムの台頭
19世紀後半、新しい劇作家たちはより現実的で社会的なテーマを扱うようになり、それに伴い舞台美術にも変革が求められた。- アンドレ・アントワーヌが創設したテアトル・リーブルは、舞台上に生活の断片をリアルに再現することを目指し、自然主義的な演出を行った。
- 舞台美術は細部にまでこだわり、観客に強い現実感を与える設定が重視されるようになった。
- 象徴主義の登場
一方で、リアリズムとは対照的に、象徴主義の潮流も登場した。- ポール・フォールのテアトル・ドールヴルは、目に見える現実を描写するのではなく、内面的な感情や精神的な世界を暗示することを目的とした。
- 詩的な言葉や神秘的な雰囲気を演出する舞台背景が特徴的だった。
- 前衛的演劇の幕開け
- アルフレッド・ジャリの『ユビュ・ロワ』の上演は、既成の演劇の枠組みを大きく揺さぶり、前衛的な演劇の始まりとなりました。
- この頃から、舞台美術にも写実的な再現を超えた、様式化や抽象化の要素が取り入れられ始めます。
- 舞台美術の革新者たち
<アドルフ・アッピア>- 舞台を単なる平面的な背景ではなく、俳優の動きや照明によって変化する立体的な空間として捉えるべきだと主張。
- 照明を舞台の雰囲気や感情を表現する重要な要素と考え、その可能性を追求しました。
<ゴードン・クレイグ> - 俳優の身体性と空間の重要性を強調し、可動性のある抽象的な舞台装置を提案。
- 演出家の絶対的な権限のもと、舞台全体を有機的に統合することを理想としました。
- 舞台空間と技術の発展
20世紀に入ると、演劇空間そのものを再考する演出家が現れました。
<マックス・ラインハルト>- 多様な演劇空間を実験的に用い、観客と舞台の関係性を問い直しました。
- 作品の内容や意図に応じて、劇場空間全体を創造的に活用する演出を行いました。
<カール・ヴァルスナー> - 回転舞台を導入し、舞台技術の大きな発展に貢献しました。