1. 戦後の劇場と舞台技術の革新
第二次世界大戦後、ヨーロッパ、特にドイツでは劇場の復興と再建 が進められた。
- 85%の主要な劇場 が被害を受けたが、残った劇場や新しく建設された劇場では、伝統的な舞台機構を維持しつつ、電気や油圧技術 を取り入れた。
- 新しい舞台機械 の導入により、人力での重量物操作が減少し、舞台の効率性と柔軟性が向上した。
- 舞台面・オーケストラピット・舞台袖の床 などが動力で昇降可能になり、反重量装置の必要性がなくなった。
- 劇場デザインの変化 により、背景や装置の配置がより自由になり、遠隔制御システム によって、単一の操作者が舞台全体を操作できるようになった。
2. チェコの舞台美術と国際的な影響
戦後、チェコの舞台美術が国際的に影響力を持つようになった。
- プラハ・カドリエンナーレ(PQ)(1967年初開催)は、舞台美術や劇場技術、建築における最新の実践を紹介する重要な国際展示会 となった。
- ヨゼフ・スヴォボダ(Josef Svoboda) は、光や投影を効果的に用いた舞台デザイン で国際的な注目を集めた。
3. 演劇表現の多様化
この時代には、舞台美術に対する多様なアプローチが生まれた。
- イェジー・グロトフスキ(Jerzy Grotowski):「貧しい劇場」の概念を提唱し、俳優の身体と観客の関係 を重視した演劇を追求。舞台装置や照明を極力排除。
- タデウシュ・カントール(Tadeusz Kantor):ポーランドの演出家・美術家。マネキンを用いた独特の舞台 や、過去のイメージを喚起する演出を展開。
4. 舞台美術家とその特徴
20世紀後半には、多様なスタイルの舞台美術家が登場した。
- カール=エルンスト・ヘルマン(Karl-Ernst Herrmann):写実的な舞台デザイン を手がける。
- リチャード・ハドソン(Richard Hudson):『トスカ』で記念碑的な効果 を追求。
- ラルフ・コルタイ(Ralph Koltai):オペラを中心に国際的に活躍。
- トニー・ストレイジス(Tony Straiges):ウイングとドロップ構造を重視したデザイン。
- ロバート・ペルジオラ(Robert Perdziola):バロック様式を再解釈 した舞台美術を制作。
- ミン・チョー・リー(Ming Cho Lee):中国的な要素を取り入れた 舞台デザイン。
- アドリエンヌ・ローベル(Adrienne Lobel):写実的かつ象徴的な舞台美術 を制作。
5. 技術革新と舞台デザインの新たな可能性
20世紀後半には、技術革新が舞台美術に大きな影響を与えた。
- コンピューター支援設計(CAD) や コンピューター制御の照明システム の登場により、舞台デザインの精度と効率が向上。
- 複雑な舞台装置や照明効果 を実現可能にする一方で、手描きスケッチや模型といった伝統的な手法の価値 や、デザイナーの創造性のあり方について議論も生じた。
まとめ
戦後の舞台美術は、劇場の復興と技術革新 によって大きく変化した。新たな舞台機構の発展 により、演出の自由度が向上し、チェコやポーランドをはじめとする東欧の舞台美術 も国際的な注目を集めた。また、演劇表現の多様化とともに、舞台美術家のスタイルも幅広くなり、コンピューター技術の発展 によって、デザインの新たな可能性が広がった時代だった。