1. 中世演劇の発展
- 劇場活動の衰退と宗教劇の台頭
中世初期、西ヨーロッパでは劇場活動が衰退し、演劇は都市や教会を中心に行われるようになった。放浪の芸人による簡素な出し物もあったが、記録はほとんど残っていない。
10世紀頃から、教会が教義を視覚的に伝えるために宗教劇を上演するようになり、これが中世演劇の主流となった。 - 聖堂劇の発展
修道院や大聖堂の祭壇・内陣を舞台として利用し、典礼の一部として演じられていた。やがて独立した劇として発展し、劇場としての機能を持つようになる。 - 世俗劇の登場
12世紀以降、宗教劇は教会の外でも上演されるようになり、市場や広場などで行われる世俗劇が発展した。
2. 舞台美術の特徴
- 象徴的な舞台装置「マンシオン」
中世の舞台美術は写実的ではなく、象徴的な表現が重視された。特定の場所を表すために 「マンシオン(Mansion)」 と呼ばれる簡素な装置が用いられ、舞台上に並べられた。- 「天国」 は高所に設置
- 「地獄」 は怪物の口の形をした装置で表現
- 各シーンの進行に合わせて役者が異なるマンシオンへ移動する形式
- 背景・装飾
舞台の背後には風景画やタペストリーが用いられたが、遠近法を使った写実的な表現はまだ一般的ではなかった。
3. 舞台機構と特殊効果
- 機械仕掛けの導入
- 天使の降臨やキリストの昇天を表現するために、ロープや滑車 を使った装置が活用された。
- 受胎告知の場面では、空を飛ぶ仕掛けが用いられることもあった。
- 音響効果の工夫
- 雷鳴や地震を再現するため、特別な道具を使った効果音が導入された。
- 「地獄の口」 と呼ばれる装置は、炎や煙を出し、恐ろしい音を立てることで、地獄の恐怖を演出した。
4. 中世後期の変化
- 多幕式舞台の登場
中世後期には、複数の場所を同時に示す 多幕式舞台 の形式が現れ、大規模な祝祭劇では多数のマンシオンが配置された。
これにより、よりスペクタクルな演出が可能になった。 - 演劇の役割
- 宗教劇:教訓を視覚的に伝え、信仰心を高める目的
- 世俗劇:民衆の娯楽として発展
中世の舞台美術は、宗教的・象徴的な表現を重視しつつ、徐々に技術的な発展を遂げ、後の演劇文化に影響を与えた。